Aが所有し、所有権の登記名義人である甲土地についての物権的請求権に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア Bは、Aに無断で、甲土地上に乙建物を建て、乙建物につきBを所有権の登記名義人とする所有権の保存の登記をした。その後、Bは、Cに対し、乙建物を売却し、Cが乙建物の所有権を取得したが、乙建物の所有権の登記名義人は、Bのままであった。この場合において、Aは甲土地の所有権に基づき、Bに対しては乙建物の収去を求めることができるが、Cに対しては乙建物の収去を求めることはできない。
イ Aは、Bに対し、甲土地を売却し、Bが甲土地の所有権を取得したが、甲土地の所有権の登記名義人は、Aのままであった。この場合において、甲土地をCが違法に占有しているときは、Bは、甲土地の所有権に基づき、Cに対し、甲土地の明渡しを求めることができる。
ウ Cは、乙動産を所有するBに無断で乙動産を持ち出し、A及びBに無断で甲土地上に乙動産を放置した。この場合において、Aが甲土地の所有権に基づき乙動産を所有するBに対して乙動産の撤去を請求したときは、Bは、乙動産を放置したのがCであることを理由に、その請求を拒絶することができない。
エ Bは、20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と甲土地を占有していた。この場合において、Bが取得時効を援用した後は、Aは、Bに対して、甲土地につき、所有権に基づく物権的請求権を行使することができない。
オ Bが甲土地に地役権を有する場合において、Cが違法に、かつ、恒常的に甲土地に自動車を駐車し、Bによる地役権の行使を妨げ、地役権を侵害しているときは、Bは、地役権に基づき、Aに対してはCによる地役権侵害行為を禁止するために必要な措置をとるように求めることはできるが、Cに対しては地役権侵害行為の禁止を求めることはできない。
1 アウ 2 アオ 3 イウ 4 イエ 5 エオ
ア ×
Aは、現実に建物を所有するCに対して、乙建物の収去を求めることができる。さらに、他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとえ建物を他に譲渡したとしても、引き続き登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、譲渡による建物の所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務をの免れることはできないとし、したがって、Aは、Bに対しても乙建物の収去を求めることができる。
イ 〇
物権的請求権は、不動産物権であれば、原則として登記を必要とする。しかし、不法占拠者等の不法行為者は、登記なくしても対抗できる第三者であるため、登記なくしても物権的請求権を行使することができる。したがって、Bは、甲土地の所有権に基づき、Cに対し、甲土地の明渡しを求めることができる。
ウ 〇
物権的請求権は、物権の妨害又は妨害のおそれが、その者の支配に属する事実によって生じている場合には、それがその者の行為に基づくか、故意・過失があるかを問わず、行使することができる。
エ 〇
時効取得者は、時効完成時の所有者に対しては、登記なくしてその取得を対抗することができる。時効完成時の所有者と時効取得者は、時効による物権変動の当事者である。したがって、AはBに対して、甲土地につき、所有権に基づく物権的請求権を行使することができない。
オ ×
地役権は、物権であるから、地役権者は、承役地に対する妨害の排除や妨害の予防を請求することができる。なお、地役権に基づく返還請求、すなわち、承役地の引渡請求をすることはできない。地役権は、占有することを内容とする物権ではないからである。