次の対話は、権利能力なき社団に関する教授と学生との対話である。教授の質問に対する次のアからオまでの学生の解答のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
教授:ある団体が法人格を有しない社団すなわち権利能力なき社団であると認められるためには、どのような要件を満たす必要がありますか。
学生:ア 団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものであることが必要です。
教授:権利能力なき社団Aの代表者であるBが、Aを代表して、Cとの間で、Aの活動に充てるための資金として100万円を借り受ける金銭消費貸借契約を締結しました。この場合において、Bを含むAの構成員各自は、Cに対して、当該金銭消費貸借契約に基づく貸金返還債務を負いますか。
学生:イ 権利能力なき社団の取引上の債務は、その社団の構成員全員に記属することになるので、Bを含むAの構成員各自は、Cに対して、直接の貸金返還債務を負います。
教授:権利能力なき社団Aの資産である不動産について、これを登記するためにはどのような方法がありますか。
学生:ウ A名義で登記することはできませんが、Aの構成員全員による共有名義で登記することや、Aの代表者であるBの個人名義で登記することは可能です。
教授:権利能力なき社団において、規約で定められていた改正手続に従い、総会における多数決により、構成員の資格要件を変更する旨の規約の改正が決議された場合、当該決議について承諾をしていない構成員に対して、当該決議により改正された規約は適用されますか。
学生:エ 権利能力なき社団の構成員の資格要件の変更については、構成員各自の承諾を得る必要があり、構成員の資格要件を変更する旨の規約の改正が総会における多数決により決議された場合であっても、当該決議について承諾をしていない構成員に対しては、改正後の規約は適用されません。
教授:それでは、権利能力なき社団である入会団体において、共有の性質を有する入会権の処分について入会団体の構成員全員の同意を要件とすることなく、入会団体の役員会の全員一致の決議に委ねる旨の慣習が存在する場合、この慣習に基づいてされた入会権の処分は効力を有しますか。
学生:オ 共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習よりも民法の規定が優先的に適用されますから、この慣習に基づいてされた処分は、共有物の処分に関する民法の規律に反するものとして、効力を有しません。
1 アイ 2 アウ 3 イエ 4 ウオ 5 エオ
ア 〇
権利能力なき社団として認められるためには、①団体としての組織を備えていること、②多数決の原則が行われていること、③構成員の変更にもかかわらず、団体が存続すること、④団体の組織によって、代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることが必要である。
イ ×
権利能力なき社団の名においてした取引上の債務は、その社団の構成員全員に1個の義務として総有的に帰属するとともに、社団の総有財産だけがその責任財産(強制執行の対象となる財産)となるから、構成員各自は、取引の相手方に対して直接には個人的債務ないし責任を負わない。
ウ 〇
権利能力なき社団がその資産である不動産を登記する場合は、代表者名義とする定めがあるときにはその代表者個人名義とし、その他の場合はその社団を構成する個人全員名義とし、その社団名義の登記はすることができない。
エ ×
権利能力なき社団において、構成員の資格に関する規約の規定が改正された場合には、改正規定は、特段の事情がない限り、改正決議に承諾していない構成員も含めすべての構成員に適用される。
オ ×
民法は、入会権を「共有の性質を有する入会権」と「共有の性質を有しない入会権」とに分類している。前者については共有の規定を適用し、後者については地役権の規定を適用するとしているが、いずれの場合にも、各地方の慣習が優先し、入会権はこの慣習により規制されている。